ある年末のこと。
大晦日とお正月の買出しのために、いつものメルカート(市場)に行った。

すでに冬休みに入った一人娘をなだめすかしながらの買い物である。
一番の難関は、何と言っても魚屋。
魚が並んでいる陳列台に群がる人。人。人。
クリスマスから年末年始にかけて、魚屋は一番のかき入れ時なのである。
必要なものをゲット(購入)するには、いくつかのポイントに気をつけなければならない。
◆ポイント1.
お店に着いたら、まず、ざっと周りを見渡す。
既に待っているお客さんの顔を覚えるためである。
ここでは、誰が自分より先にいて、誰が自分より後に来た人なのか、把握しておくのが重要である。
◆ポイント2.
店員の動きをチェック。
注文は、いったい誰にしたら良いのかをじっくり見定める。
◆ポイント3.
その店員に注文するためにはどの場所をキープすれば早く買えるのか、場所取りも大切。
・・・そう。
メルカートは弱肉強食の世界である。
強い物は弱いものを押しのけて進む。
買い物の格闘技と言っても過言ではあるまい。
そうこうするうちに、鈴なりに群がっている買い物客集団の最前列に到達!
やっと自分の番が来る!
しかし、メルカートの世界は、そう甘くない。
後ろにいるおばちゃんが、顔見知りの魚屋のおばちゃんに巧妙に声を掛ける。
「ルイ-ザ!この魚ってどのぐらいの重さ?」
つい魚屋のおばちゃんが答えると、
「じゃあ、それをお願い」
誘導尋問ならぬ「誘導的買い物順番飛ばし術」である。
そんなツワモノ連中が、次から次へと、あの手この手で押し寄せてくるのである。
そんな無法地帯で、はたして魚を買うことができるのだろうか?
そこで問題!
最前列に来たは良いが、お店の人がなかなか自分に声をかけてくれない。
あなたなら、どうする?
1.順番とばしの無法おばちゃんに鋭い眼光を向け、
「次は私よ」と怖い顔でにらみつける。
2.にっこり微笑み続け、男の店員さんが気をつかって
声をかけてくれるまで、辛抱強く待つ。
3.「ルイーザ!このエビ、あした料理する予定なんだけど、大丈夫だよね」
と、今マスターした技を素早く活用する。

★★★ 解説 ★★★
<1.順番とばしの無法おばちゃんに鋭い眼光を向け、「次は私よ」と怖い顔でにらみつける。>
これは、他のイタリアおばちゃん同士がよく使う技である。
そのためには、前述した<ポイント1.誰が自分より先にいて、誰が自分より後に来た人なのか、把握しておく。
「本当にこのおばちゃんは順番抜かしをしているのか?」という確信がなければ文句も言えない。
さらに、リスクもつきまとう。
相手が強力な場合、
「そんなこと言ったって、私は100年も前からここで待っているのよ!」
「ここの魚屋は1000年も前からのなじみ客なのよ!!」
(当然、この店は1000年も前からある訳がない)
などと、全く脈絡の無いイイワケを機関銃のようにあびせかけてくる。
さらには、
「自分は魚を買って今晩どんな料理を作る予定か。」
という事から、
「自分の息子がどれだけ優秀か。」
という事まで知る羽目になる。
<2.にっこり微笑み続け、男の店員さんが気をつかって声をかけてくれるまで、辛抱強く待つ。>
この方法も、時間がある場合はいいかもしれない。
何と言っても、個性的な人が多いイタリアで人間観察する事は、実に楽しいのだから。
<3.今マスターした技を素早く活用する。>
何と言っても、これが一番効果的である。
今初めて聞いた魚屋おばちゃんの名前すらも、まるで昔からの知人のように親しげに声をかけられれば、
あなたはもうイタリア人!
ちなみに、私がとった方法は。。。
上記のどれでもなく、何人かに順番抜かしされて、魚屋おばちゃんへの声かけタイミングを図っていたとき、隣で順番を待っていた別のおばちゃんが、見るに見かねて魚屋おばちゃんに声をかけてくれた。
「ちょっとー。この人、さっきから行儀よく待っているんだから、早く注文聞いてあげなさいよ」
そうそう、イタリアには、順番とばしおばちゃんの他、世話好きおばちゃんも多数存在しているのです。
おかげで、無事に魚も購入完了。
世話好きおばちゃん、ありがとね。(-^□^-)
※この投稿は、2011年の体験をもとに作成しています。
そのため、現在の状況とは違う場合があります。